ビデオIP伝送 ネットワークスイッチガイド

はじめに

Blustreamマルチキャストシステムは合計伝送距離82km、送信機100台、受信機800台の大規模なマルチキャストシステムを2019年に開催された韓国冬季国際競技試合で採用、運用された実績を持つ安定したマルチキャスト配信システムです。

設置する施設や建物の部屋間にて光ファイバーケーブルが敷設されていたり、大量のBlustreamマルチキャスト機器(51台以上)を複数のネットワークスイッチに接続するような大規模設置環境では、システム設計を行う際に、幾つか考慮する点が存在します。

シングルネットワークスイッチシステム アーキテクチャ

BlustreamマルチキャストHDMI Over IPを利用する際は、ビデオ配信用として使用するネットワークスイッチを独立させ、業務用など他の用途で使用されるネットワークスイッチとは分離することをお勧めします。ビデオ配信用と他のネットワーク用とでスイッチを分離することで、各ネットワークスイッチでのトラフィックパフォーマンスを最適な状態に保つことができます。

下記、接続図のようにBlustreamマルチキャストシステムで必要なネットワークスイッチが1台の場合は、設置方法は至って簡単です。全てのBlustreamマルチキャストデバイスは、そのビデオ配信用ネットワークスイッチに接続しACM200コントロールモジュールをブリッジの役割として、ビデオ配信用ネットワークスイッチと他のネットワーク機器接続用ネットワークスイッチを繋ぎます。

このように、ネットワークスイッチ1台のみで、各ネットワークポートのストリーム送受信データパケット数を最大1Gbに収まるよう設計することで、他のネットワーク機器のトラフィックを考慮する必要がなくなります。

PoEの割り当て

ネットワークスイッチのPoEの最大供給電力を考慮してください。各Blustreamマルチキャストデバイスは約6~9Wの電力を必要とします。接続したマルチキャストデバイス数がネットワークスイッチで対応したPoEの最大供給電力を超えると正常に動作しなくなる恐れがあります。

尚、昨今の市場においては、入手可能なネットワークスイッチの殆どがPoE+に対応してきていることから、接続された全てのマルチキャストデバイスは1つのネットワークスイッチからPoE+での電源供給で賄える場合が多いです。

マルチキャストシステムにおけるデータアグリゲーション

複数のネットワークスイッチを使用したシステム設計を行うには、先ずどのようなネットワークスイッチを採用すべきか考慮する必要があります。

  • Blustreamマルチキャストシステムでは、スタッカブルネットワークスイッチを採用する必要はありません。レイヤー3ネットワークスイッチであれば問題なくご利用いただけます。
  • ネットワークスイッチ間を接続するアップリンクポートの帯域幅をご確認ください。RJ-45でのアップリンクポートを採用したネットワークスイッチではなく、SFPポートが採用されたネットワークスイッチを選択してください。SFPポートから光ファイバーケーブルを用いた接続を行うことで、より大きな帯域を長距離伝送することができます。通常これらのポートは10Gbまたは5Gb対応となっておりますが、10Gb帯域のアップリンクポートを搭載したネットワークスイッチをお勧めします。

複数のネットワークスイッチを接続する上でアップリンクポートの帯域はとても重要です。Blustreamマルチキャスト送信機の送信するストリームが必要とする帯域の最大値として、0.9Gbを確保する必要があります。通常の銅線仕様のRJ-45でのネットワークスイッチ間におけるアップリンク接続では1Gbの帯域となっているため、そのままでは、1つのマルチキャスト送信ストリームのみをマルチキャスト受信機に伝送できる仕様となってしまいます。

マルチキャストであるため、送信機全てのストリームが複数のネットワークスイッチ接続において常時ストリームされる訳ではないことにご注意頂き、アップリンクポートの帯域設計を行ってください。

上記、接続図にて1つの4K UHDストリーム3台すべてのマルチキャスト受信機に伝送する場合、1つの配信ストリームのみを送信機から3台すべての受信機に伝送するので、ネットワークスイッチ間でのアップリンクポート使用帯域は0.9Gbとなります。また、各マルチキャスト受信機にて個別のソースを受信する場合はネットワークスイッチ間では3つの異なる配信ストリームが送信されるため、計2.7Gb(3 x 0.9Gb)の伝送帯域が必要となります。

送信機側から配信するHDMI信号の解像度を下げることでマルチキャスト送信機からの配信ストリーム容量を減らすことが可能です。1080p解像度では通常、最大0.5Gbの配信ストリームの帯域を必要とするので4K解像度で必要な0.9Gb帯域と比べ、より多くのソースを10Gbのアップリンクポート上で伝送することが可能となります。また、Blustreamマルチキャストデバイス のウェブインタフェースでは、帯域レベルの固定設定オプションによりストリーム帯域を減らすことも可能ですが、映像画質の低下につながるため、最終手段としてご利用いただくのみに留めることをお勧めします。

これらの条件を踏まえると、マルチキャストシステムにて配信する映像解像度とネットワークスイッチ間でのアップリンクポートにて同時伝送される必要帯域の考慮は重要な設計要件となり、如何にアップリンクポートでの同時伝送帯域を減らし、分散したバランス良い設計をするかが大切となります。システム設計の例として、1つのビデオソースを通常決まった4つの異なる部屋でのみ視聴する場合は、その送信機は出来るだけマルチキャスト受信機が接続された同じネットワークスイッチに接続し、アップリンクを使用せず1つのネットワークスイッチ内でストリーム伝送を完結させることをお勧めします。

ネットワークスイッチスタック構成

2台以上のネットワークスイッチを論理的に1台に束ね、複数のネットワークスイッチをスタック構成にする場合、各ネットワークスイッチでの設定を理解する必要があります。通常、ネットワークスイッチをスタック構成にした場合、ネットワークスイッチはマスターとスレーブに分かれ、マスターでのみマルチキャストルーティング設定が可能となります。詳しいネットワークスイッチでのスタック構成方法についてはネットワークスイッチメーカにお問合せください。

2台以上のネットワークスイッチをスタック構成にする場合、各ネットワークスイッチを1本の(10Gb)アップリンク接続で構成できますが、以下のような接続をお勧めします。

通常、スイッチ2とスイッチ3とをアップリンク接続する必要はありませんが、接続することで他のアップリンクポートにて障害発生した際、バックアップ接続として動作させることで、冗長性を担保することができます。

また、アップリンクポートにて10Gb以上の帯域が必要となった場合は、複数のSFPポートをアグリゲーションし、ネットワークスイッチ間のリンクを並列接続することで帯域拡張も可能ですが、Blustreamマルチキャスト送信機の接続先ポートを変更し、トラフィックを分散化する設計考慮も必要となります。

上記のとおり、バックアップ接続は推奨いたしますが、リンクアグリゲーションでのトラフィック分散を考慮した上でネットワークスイッチ間の効率良いデータフローを確保してください。